穏やかな一個

私の父の成瀬政博が詩集「穏やかな一個」を出版しました。

週刊新潮の「表紙のはなし」が元になった詩集です。

表紙の絵と扉の絵は私の絵です。

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成瀬政博「穏やかな一個」

この詩集の中から3篇、紹介させていただきます。

ごきげんさん

もうそんなこと

ぜんぜん気にしてないよ

ほら まあ飲んで

どう うまいでしょ

きのうね おやじがね

夢にでてきたのよ

なにかいいことあったのか

酔っぱらっててさ

あの世でも ごきげんさんだって

いいよね うれしいね

ね もう一杯いこうよ

ノン・アルコールだけど

いいよね

ごろん

スイカのように

ごろんところがっていたい

タタミのうえでごろん

この地上のどこかで

ごろんところがっていたい

たっぷりと水をふくんで

ちょっとした重さをもって

それだけでじゅうぶんなんだ

といっているような

ごろんとしたものになりたい

ごろんところがっていたい

ランドセル

ランドセルが歩いていく

路地を曲がって 歩いていく

祠のそばを 歩いていく

並木の下を 歩いていく

ランドセルが歩いていく

雨の歩道橋を 歩いていく

商店街の中を 歩いていく

ケーキ屋さんの前を 歩いていく

ランドセルが歩いていく

台所を抜けて 歩いていく

座敷を横切って 歩いていく

廊下の奥へ歩いていく

ランドセルが

水色の空を 歩いていく

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